大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所金沢支部 事件番号不詳〔1〕 判決

主文

被告若鶴酒造株式会社を罰金五十万円に処する。

被告人稲垣小太郞を懲役八月および罰金十万円に処する。

被告人花島良平を罰金三万円に処する。

被告人稲垣小太郞に対し本判決確定の日より三年間右懲役刑の執行を猶予する。

被告人稲垣小太郞、花島良平に於て右罰金を完納できないときは金五百円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

被告人稲垣小太郞より八十九万八千二百五十七円五十八銭を追徴する。

訴訟費用中証人中〓勇に支給した分は被告若鶴酒造株式会社、稲垣小太郞、花島良平の連帯負担とし、証人金子周造、鍛冶次信に支給した分は被告人稲垣小太郞の単独負担とする。

被告若鶴酒造株式会社の臨時物資需給調整法違反の点は無罪。

被告人稲垣〓二は無罪。

理由

被告若鶴酒造株式会社は富山県東礪波郡油田村三郞丸二百八番地に本店を有し酒類およびその副産物の製造販売業を営み、被告人稲垣小太郞はその取締役社長として一切の業務を総括し、被告人花島良平は昭和二十二年十一月十八日まで居村の郵便局長を勤めその後農業に従事しているものであるか

第一  被告人稲垣小太郞は個人名義を以て肩書自宅で酒類小売業を営むものであるが、昭和二十一年七月上旬右自宅店舗で高岡市博労町井波義雄より金子周造、高畠秀松を介し清酒四斗八升の買受方申込を受け、右井波に対し法定の除外事由がないのに営利の目的を以て清酒一級壜詰品四斗八升を同年三月三日大蔵省告示第五十八号指定の小売業者最高販売価格一升二十三円を超過する一升当り百五十円合計金七千二百円(超過額合計六千九十六円)で販売の契約を為しその頃右代金を受領し

第二  被告人稲垣小太郞は被告若鶴酒造株式会社の業務に関し法定の除外事由がないのに営利の目的を以て

(一)昭和二十二年七月下旬原審相被告人たる富山県東礪波郡福野町富山<東>食品加工工業協同組合代表者月共米次郞より被告人花島良平を介し被告会社生産の酒粕千貫の買受方申込を受け八月下旬肩書自宅に於て月共に対し酒粕千貫を被告会社工場渡で昭和二十一年五月十三日大蔵省告示第三百四十一号指定の酒粕卸売業者販売価格の統制額たる一貫七円八十銭を超えて米粕百匁当り三十円、高梁粕百匁当り二十五円の割合で販売する契約を為し同年九月上旬米粕六百五十貫同月下旬高梁粕三百五十貫合計千貫を引渡しその頃花島を介して代金合計二十八万二千五百円(超過額二十七万四千七百円)を受領し

(二)昭和二十二年十一月上旬前記月共米次郞より被告人花島良平を介し酒粕二千貫の買受方申込を受け同月十一日頃前記自宅に於て月共に対し酒粕二千貫を被告会社工場渡で前記統制額を超えて米粕百匁当り三十四円、高梁粕百匁当り二十九円の割合で販売する契約を為し同日頃米粕千十二貫九百匁、高梁粕三百六貫を引渡し同月二十六日頃、高梁粕八百十貫を引渡し(合計二千百二十八貫九百匁)その頃数回に前記組合理事藤崎庄太郞或は被告人花島を介して、代金六十六万八千二十六円(超過額六十五万千四百二十円五十八銭)の内六十五万七千八百九十七円を受領し

第三  被告人花島良平は前記月共米次郞より依頼せられ法定の除外事由がないのに営利の目的を以て

(一)前記第二の(一)記載の酒粕取引につき月共を代理して被告人稲垣小太郞との間に同掲記の通り統制額を超過する価格を以て酒粕買受の契約を為し、且その代金を月共より受領して小太郞に支払い

(二)前記第二の(二)記載の酒粕取引につぎ月共を代理して被告人稲垣小太郞との間に同掲記の通り統制額を超過する価格を以て酒粕買受の契約を為し、且その代金の一部を月共より受領して小太郞に支払い

以て月共の前記物価統制令違反の所為を容易ならしめ之を幇助したものであつて

被告人稲垣小太郞の第一、第二の(一)(二)の各所為被告人花島良平の第三の(一)(二)の各所為はそれぞれ犯意継続に係るものである。

(証拠説明省略)

法律によると被告人稲垣小太郞の第一の所為は物価統制令第三条第四条第三十三条、昭和二十一年三月三日大蔵省告示第五十八号に該当し第二の(一)(二)の各所為は物価統制令第三条、第四条、第三十三条、昭和二十一年五月十三日大蔵省告示第三百四十一号に該当し以上は昭和二十二年法律第百二十四号附則第四項改正前の刑法第五十五条により連続一罪として処断すべく情状により物価統制令第三十六条により懲役及び罰金を併科するを相当とし被告若鶴酒造株式会社は代表者たる被告人稲垣小太郞の前記所為により物価統制令第四十条に該当するので(被告人稲垣小太郞に適用したると同一の法条を適用し物価統制令第三十六条を除く)所定の罰金刑を併科すべく被告人花島良平の第三の(一)(二)の所為は物価統制令第三条、第四条、第三十三条、昭和二十一年五月十三日大蔵省告示第三百四十一号、昭和二十二年法律第百二十四号附則第四項改正前の刑法第五十五条に該当するので所定刑中罰金刑を選択しなお右三者につき罰金刑については罰金等臨時措置法第一条第二条を適用すべきところ犯罪後の法律により刑の変更せられた場合であるから新旧両法を比照し刑法第六条第十条により軽き行為時法に従うべくよつて所定範囲内に於て被告若鶴酒造株式会社を主文第一項の如く被告人稲垣小太郞を主文第二項の如く被告人花島良平を主文第三項の如く量定処断し被告人稲垣小太郞に対しては情状により刑法第二十五条に従い本判決確定の日より主文第四項の如く懲役刑の執行を猶予し被告人稲垣小太郞、花島良平に於て罰金を完納できないときは刑法第十八条に従い主文第五項の如く換刑処分をなすべく昭和二十三年三月十三日附花島良平に対する司法警察官聴取書および領置書(四五九丁)によれば右日時司法警察官の手に於て差出人花島良平所有者稲垣小太郞として現金九十一万九千五百四十六円五十八銭が押収せられ右は当審受命判事の検証の際に於ける立会人たる株式会社北陸銀行出町支店勤務の神沢重治、高島芳雄の各供述を総合すれば同年同月十五日司法警察官が北陸銀行出町支店に持参して保護預をなし、同年六月十一日右の内九十一万七千八百四十六円五十八銭が出町検察庁検察事務官高島武治の右銀行に於ける特別当座預金口座に預入せられたことが明瞭である而して上段事実認定の証拠に引用した原審第一回公判調書に於ける被告人稲垣小太郞の供述記載および原審第二回公判調書における花島良平の供述記載を総合すれば昭和二十二年十二月十三日被告人稲垣小太郞より被告人花島良平に対し酒売却代金(判示第二の(一)(二)の取引)の内統制額を超過した分として八十九万八千二百五十七円五十八銭が返還せられたことが明らかでありこの事実と前記花島の聴取書及び領置書を対照すれば該金員は上記の九十一万九千五百四十六円五十八銭中に含まるることを認むるに足る右金員は被告人稲垣小太郞が第二の(一)(二)の犯行により取得したもので同人以外の何人の所有にも属せず然も前記預入によりその物自体を没収することができないこととなつたので刑法第十九条第十九条ノ二によりその価額を被告人稲垣小太郞より追徴すべく主文第七項掲記の訴訟費用は刑事訴訟法施行法第二条旧刑事訴訟法第二百三十七条第一頃第二百三十八条に従い同項記載の如く負担せしめる。

被告人稲垣〓二は被告若鶴酒造株式会社の常務取締役であるが

(一)同会社の業務に関し法定の除外事由がないのに営利の目的を以て昭和二十三年一月中旬社長稲垣小太郞の上京不在中会社本店に於て被告人花島良平を介し前記組合理事月共米次郞より被告会社生産の酒粕八百貫の買受方申込を受け同人に対し高梁粕百匁当り三十円で販売する契約を為し即時手附金五万円を受領し同月中旬高梁粕七百九十八貫八百匁および米粕二十貫を引渡しその頃同組合理事藤崎庄太郞を介し高梁粕の前記契約額二十三万九千六百四十円と米粕につき百匁当り三十五円の割合に依る七千円との合計二十四万六千六百四十円中右手附金五万円を差引いた残額十九万六千六百四十円の交付を受け全代金の受領をなし以て酒粕に関する統制額を合計二十三万八千三百八十三円三十六銭超過する代金合計二十四万六千六百四十円にて販売して代金を受領し

(二)右会社の業務に関し法定の除外事由がないのに右会社が指定生産資材在庫調整規則施行の昭和二十二年一月二十五日現在に於て業務上指定生産資材である石炭を制限数量五十屯を超え約百屯所有して居つたのに拘らず三十日以内に地方長官を経由し主務大臣に報告せず

(三)昭和二十一年十二月頃より昭和二十三年三月上旬迄富山県東礪波郡油田村三郞丸油田村農業会の会長として同会の常務一切を統括していたものであるが昭和二十三年一月下旬農業会業務理事山田養三をして同農業会保管中の同村民所有の供出米中指米掃寄米等として集積された所謂無籍米(粳玄米)五俵を之よりさき同農業会が肥料購入の際その促進のため被告人稲垣〓二より立替送附した清酒二級一斗の代償名下に壇に右農業会倉庫より肩書居宅に運搬せしめて之を取得し以て横領し

たものであるとの公訴事実についてはいづれも犯罪の証明がなく

従て右(二)の事実にもとづく被告若鶴酒造株式会社の臨時物資需給調整法違反の公訴事実についても犯罪の証明がなく以上はいづれも刑事訴訟法施行法第二条旧刑事訴訟法第三百六十条に従い無罪の言渡を為すべく被告花島良平が原審相被告人月共米次郞と被告人稲垣〓二間の右(一)の取引につき月共の所為を幇助したとの公訴事実についても犯罪の証明がないので前記法条により無罪の言渡をなすべきところ右は被告人花島良平の判示第三の(一)(二)の所為と連続犯の関係にありとして起訴せられたものであるから主文に於て特に無罪の言渡を為さない。

よつて主文のとおり判決する。(昭和二四年一一月一六日名古屋高等裁判所金沢支部)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!